スパゲッティは素人が扱うものではない

日本でスパゲッティと呼ばれる食べ物は、主にスパゲッティーニ(太さ1.6mm前後)という麺を使用したものである。

レストラン・家庭問わず、パスタといえばスパゲッティーニが使われることが多いが、それは本当にベストな選択だろうか。

思うに、我々アマチュアがたまにパスタ料理を作る分には、フェデリーニ1.4mm前後)を使った方が圧倒的にメリットが多い。

以下、フェデリーニを使用するメリットを書いていく。

 

茹で時間が短い

当然である。

スパゲッティーニより細いので、茹で時間が約3分ほど短い。早く出来上がる。ガス代もかからない。

 

ソースと絡みやすい

当然である。

スパゲッティーニより細いので、少々混ぜる手際が悪くてもソースと絡んでくれる。

パスタに味がつかなくて困っているなら、フェデリーニを使うとマシになる。

 

茹で加減をミスりにくい

今回、主に言いたいのはこれだ。

フェデリーニを茹でるのは簡単。スパゲッティーニを茹でるのは難しい。

「アルデンテ」という言葉を聞いたことがあるだろう。

麺の中心部にわずかに芯が残っている茹で加減のことであり、その状態が歯ごたえがあって美味しいとされる。

ちゃんと茹だっていない状態が美味しいというのはいかにも奇妙に思えるが、それも仕方がない。

スパゲッティーニは、芯まで茹でると麺の外側が茹で過ぎになってしまうのである。

アルデンテが一定の支持を集める本当の理由は、芯が残っているからではなく、外側が丁度いい茹で加減で保たれるからだ。

芯など残っていない方が良いと主張する人も多い。麺全体を丁度いい茹で加減にできるのであれば、それがベストに違いない。

腕のいい料理人はその辺をうまくやるのだろう。軽く芯が残った状態でお湯から上げ、ソースと絡める過程で内部の柔らかさを調整し、外側の茹で加減も良い塩梅でキープする。

我々アマチュアには難しい。大抵、中が硬くなりすぎるか、外側が茹だち過ぎるか。何かの拍子に上手くいっても、なかなか再現できない。

そこでフェデリーニである。フェデリーニを使えばこの問題は全て解決する。

麺の外縁部は「全体の茹で時間」の影響をもろに受ける。

肉を焼く時と同じだ。分厚い肉を普通に焼こうとすると、中に火が通る前に表面が焦げてしまう。

フェデリーニは短い時間で芯まで茹で上がるので、麺の外側がお湯と接触している時間も短くて済む。

特に何も考えず、芯を残そうと意識しなくても、よい歯ごたえが保たれる。

 

そもそもなぜスパゲッティーニが主流か

ここまでフェデリーニのメリットを挙げてきたが、太い麺を使うメリットはあるのだろうか。

一般に「さっぱりとした軽めのソースには細いパスタ、濃い目のソースには太いパスタ」を使うことが推奨される。

軽めのソースに細いパスタを用いるのはもっともである。そうでなければ味が薄くなり過ぎるからだ。

しかし、濃い目のソースには必ずしも太いパスタを使う必要がない。細いパスタを使ったからといって、味が濃くなり過ぎるわけではない。味が濃いならソースの量を減らせばいい。

太いパスタを使う必要性が生じる状況はごく限られたもので、多くの場合太いパスタを使うのは、単に太いパスタが好きだからだ。

人間は、どうしようもなくスパゲッティーニ(1.6mm前後)や、スパゲッティ(1.8mm前後)の太さが、好きなのだ。

だから当然、どんな麺でも味のつく濃い目のソースなら1.6mm以上の麺を使う。好きだから。太い麺では味がつかない軽めのソースの場合は仕方なく、本当に仕方なく細い麺を使う。それが現状なのだろう。

かくも私達は「食感」を重視している。

太い麺の食感を愛している。

しかし、太い麺をしっかり茹でつつ良い食感を保つのは難しい。

ここに背反があり、そのぎりぎりの均衡点がスパゲッティーニのアルデンテなのだ。

それほどスパゲッティーニは繊細で絶妙なポジションに位置している。

少しでもミスれば食感は台無し。太い麺を選んだ意味がなくなってしまう。

フェデリーニを使えば、大きく食感が損なわれることはない。

確かに、スパゲッティーニ(1.6mm前後)とフェデリーニ(1.4mm前後)の0.2mmの差は、口に入れてみると意外なほど大きい。

スープパスタでもないのに細い麺を食べることに、最初は違和感がある。

しかし、フェデリーニに慣れたらもうスパゲッティーニには戻れない。

というのは言い過ぎかもしれないが、あまりにも楽。あまりにも簡単。

そもそも素人の家庭料理など、材料や設備、あらゆる面において妥協の塊なのだから、ここだけ妥協しないのは理に合わない。

最初から何もかもプロとは違う。

安い材料、廉価な道具、手軽な手法。

麺の太さだけプロ仕様にこだわる理由が一体どこにあるのか。